チョコレート 私的解説
ロッキングと呼ばれる症状がある。 脳の気質障害を持つ者が、常に体を揺らし続ける症例のことを指す言葉だ。 ひとつの場所での跳躍を繰り返す。 そしておうむ返しを繰り返し、ヒトと視線を合わせず、体を揺らしながら、斜めに光を透かして覗き込む。ゼンの症…
ゼンの目に映るもの。 それは霞んだ世界の脈動の絵。 万華鏡のようにきらめきながら、とりとめもなく姿を変え、捉えどころなく変わり続ける幻想の絵。 ゼンの世界はその絵の向こう。 母への愛おしい思いも、伝わらない孤独の恐怖も、すべてはその向こう。 こ…
「ここは住むに便利なところよ、まあちょっとうるさいけど、それもすぐに慣れるからね」 新居にたどり着く親子の姿。 追って来る運命から逃れるように、二人は住居を転々として行った。 ジンは思う。 この子が育って行くために必要な環境だけは与えてあげた…
「ジンとあの日本人がまた連絡取り合ってる。どうする?」 ジンの知らないところで運命は胎動をはじめていた。 人の妬みの心。 人の心の闇。 むさぼるように何かを求める心には、沈鬱な獣が息吹はじめるのだ。 業の応報がはじまる。 かつて若さのゆえに蒔いた…
ジンはその子の名を、父親にちなんで日本語にしたいと考えた。 だからその言葉の意味をよく考えてみたことがある。 その子はゼンと名付けた。 ゼンとは、宇宙のこと、正しい行いのこと、前へ進もうとする心のこと。 日本語では、それらをすべて「ゼン」と言…
「このお人形さん、お父さんの代わりよ。大切になさい」 ジンは途方に暮れていた。 どうしたらいいのだろう? 何をしてあげられるのだろう? 医師は言う。 「観たところ状態は悪くありません。だが他の子とちょっと違う分、特別なケアが必要になってきます。…
月日は流れた。 マフィアの群れから離れ、誰にも頼ることなく生活を営み始めたジン。 そしていま、おおきなおなかをかかえた彼女の表情には、もうかつての妖艶な陰はなく、ただ、満たされた女の喜びの様子がうかがわれるばかりだった。 母になるということ。…
運命のままに惹かれあうマサシとジン。 ナンバー8の目を盗んで、ふたりの密会は繰り返されていた。 ジンは、マサシとの甘い時間にどんどん溺れて行く。愛し合うふたりの行動は次第に大胆なものとなって行った。 もちろん、そんなふたりに気付かないナンバー…
ナンバー8と呼ばれるマフィアのボス。 彼はこの地区を仕切る支配者であり、マサシが魅入られたその女「ジン」の所有者であった。 ナンバー8とジンの道行きは一蓮托生、ひとつの番(つがい)なのだ。 マフィアの稼ぎは彼女の仕事なのであり、彼女のボスの意…
『少年は傷ついた不完全なものに、心を惹かれていた。 そしてその傷の原因に思いを巡らせることが好きだった。 その傷に触れるたびに感じる心の旅は、彼にとって大きな喜びであった。 その過程で触れる何か危険な香りは、彼をより深い快感へと誘ったのだ。』…
この作品の冒頭には、誰かへの追悼や謝辞としてではなく、願わくばこのようであってほしいという意味での監督からのあるメッセージが捧げられている。 それには、次のようにある。 『本作を撮るきっかけは 才能ある子供たちに出会ったことでした。 彼らの無…