チョコレート
ジンはその子の名を、父親にちなんで日本語にしたいと考えた。
だからその言葉の意味をよく考えてみたことがある。
その子はゼンと名付けた。
ゼンとは、宇宙のこと、正しい行いのこと、前へ進もうとする心のこと。
日本語では、それらをすべて「ゼン」と言う。
禅、然、全、善、あるいは、前。
あらゆる加護がこの子にありますように、と、祈りをこめて名付けた。
神がきっと、この子を守ってくださいますように、と。
でも、いまは違う。
この子を守るのは神様じゃない、自分だ。
たったひとりの、この子の母親である自分なんだ。
ジンはこの現実を受け入れた。
そして決意を、父親であるマサシに伝えたのだった。
「あれからずいぶん経ちましたね。
あの日、あなたに別れを告げたのにはわけがあるんです。
娘を育てるのはとても大変だけど、喜びでもあります。
娘が父親のあなたにそっくりだから。
ゼンは他の子と違って特別なケアが必要ですが、私の宝です。
愛をこめて ジンより」
ゼンはまた泣いている。
何が苦しいのかわからないけれど、大声で止め処もなく泣き出している。
ジンはもう戸惑うことはなかった。
この子が喜ぶから、お菓子を与えてあげた。
泣き止まないこの子に、何かが出来るのなら、と。
私がいつも、あなたといっしょにいるからね、と、その手にチョコレートをのせてあげた。
ゼンはそれを頬張って、少し落ち着いた様子だった。
うれしいのか、どうかはわからない。
ジンはただ、この子のことをとても愛おしく想った。
だからその言葉の意味をよく考えてみたことがある。
その子はゼンと名付けた。
ゼンとは、宇宙のこと、正しい行いのこと、前へ進もうとする心のこと。
日本語では、それらをすべて「ゼン」と言う。
禅、然、全、善、あるいは、前。
あらゆる加護がこの子にありますように、と、祈りをこめて名付けた。
神がきっと、この子を守ってくださいますように、と。
でも、いまは違う。
この子を守るのは神様じゃない、自分だ。
たったひとりの、この子の母親である自分なんだ。
ジンはこの現実を受け入れた。
そして決意を、父親であるマサシに伝えたのだった。
「あれからずいぶん経ちましたね。
あの日、あなたに別れを告げたのにはわけがあるんです。
娘を育てるのはとても大変だけど、喜びでもあります。
娘が父親のあなたにそっくりだから。
ゼンは他の子と違って特別なケアが必要ですが、私の宝です。
愛をこめて ジンより」
ゼンはまた泣いている。
何が苦しいのかわからないけれど、大声で止め処もなく泣き出している。
ジンはもう戸惑うことはなかった。
この子が喜ぶから、お菓子を与えてあげた。
泣き止まないこの子に、何かが出来るのなら、と。
私がいつも、あなたといっしょにいるからね、と、その手にチョコレートをのせてあげた。
ゼンはそれを頬張って、少し落ち着いた様子だった。
うれしいのか、どうかはわからない。
ジンはただ、この子のことをとても愛おしく想った。