芽生え
「ここは住むに便利なところよ、まあちょっとうるさいけど、それもすぐに慣れるからね」
新居にたどり着く親子の姿。
追って来る運命から逃れるように、二人は住居を転々として行った。
ジンは思う。
この子が育って行くために必要な環境だけは与えてあげたい、と。
生きていかなければ。
自分を見舞う運命の魔手がこの子に及ばないように、頼りになるのは自分だけなのだ。
ジンは願う。自分を戒めながら、出来ることはすべてしてあげたい、と。
あいかわらずゼンには言葉がない。
「おうむ返し」と呼ばれる、問うことをそのまま問い返すだけの返事。
言葉のやりとりは成立しない。
母である自分とすら視線を合わせることはない。
でも、それがこの子の障害のカタチなのだ、しょうがない。
力強く黙々と線を描き続け、きらめくものを翳し、透かして覗き込むゼン。
そこには、会話も愛撫もなんの反応もない。
ジンは思う。
それでもいい、と。この子が悲しまないように、いつも自分がいてあげられるのなら、と。
新居にたどり着く親子の姿。
追って来る運命から逃れるように、二人は住居を転々として行った。
ジンは思う。
この子が育って行くために必要な環境だけは与えてあげたい、と。
生きていかなければ。
自分を見舞う運命の魔手がこの子に及ばないように、頼りになるのは自分だけなのだ。
ジンは願う。自分を戒めながら、出来ることはすべてしてあげたい、と。
あいかわらずゼンには言葉がない。
「おうむ返し」と呼ばれる、問うことをそのまま問い返すだけの返事。
言葉のやりとりは成立しない。
母である自分とすら視線を合わせることはない。
でも、それがこの子の障害のカタチなのだ、しょうがない。
力強く黙々と線を描き続け、きらめくものを翳し、透かして覗き込むゼン。
そこには、会話も愛撫もなんの反応もない。
ジンは思う。
それでもいい、と。この子が悲しまないように、いつも自分がいてあげられるのなら、と。